ご夫婦側の因子と検査

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ここでは、反復着床不全(RIF)不育症のご夫婦側(染色体異常の検査はご夫婦。それ以外は母体側)の因子と、その検査方法をご説明します。

なお、前回の流産時に、流産絨毛染色体検査(POC)を受けた結果、胎児の染色体が正常だった場合には、母体側に流産の因子があると推測されるため、下記の検査で要因を探って治療を受けましょう。

当院で、POCが染色体正常だった方のうち、治療を継続し、母体側に因子が見つかって積極的な治療をされた方の9割以上が、次回の妊娠で良好な過程をたどられました。

なお、POCの結果、胎児が偶発的な染色体数の異常(通常2本で対になるところ、3本の場合はトリソミー、1本の場合はモノソミーといいます)を持っていた場合には、そのことが流産原因であった可能性が高いでしょう。一方、染色体に形や構造的な異常が見つかった場合には、今後の妊娠のため、ご夫婦の染色体検査を受けることが推奨されます。

母体側に考えられる因子

子宮機能の障害

子宮筋腫、子宮奇形(中隔子宮、双角子宮など)、子宮腺筋症などの子宮形態の異常は、着床障害や流産の要因になることがあるため子宮鏡検査、子宮卵管造影検査(HSG)、3D超音波検査、MRIなどを実施して、子宮の状態を調べます。

検査方法

  • 子宮鏡検査
    子宮の入り口から直径約3㎜の柔らかいファイバースコープを挿入し、直接子宮の中を観察する検査です。子宮内腔に、病変(子宮内の癒着、内膜ポリープ、粘膜下筋腫、慢性子宮内膜炎など)があるかどうかがわかります。
  • 子宮卵管造影検査(HSG)
    子宮の入り口から細いチューブを挿入して造影剤を注入し、X線撮影を行うことで、子宮の形や卵管の通過性、癒着の程度などを調べる検査です。
  • 3D超音波検査
    近年、胎児の顔や手足などを立体的に見ることなどに用いられている特殊な超音波検査です。連続的に複数の超音波断面を組み合わせ解析することにより、立体的な観察が可能になります。これを利用して、子宮内腔を立体的に観察します。子宮卵管造影検査のような痛みはなく、簡便に子宮内腔の形態(子宮内の癒着、弓状子宮など)が分かる検査です。
  • MRI
    X線を使用せずに子宮や卵巣などの状態を鮮明に映し出すことができます。子宮筋腫や子宮腺筋症、卵巣嚢腫などが疑われるとき、双角子宮と中隔子宮の鑑別をしたいときに行う検査です。

検査の費用

子宮鏡検査 自費:約3,300円(税込)
子宮卵管造影検査(HSG) 自費:約15,400円(税込)
3D超音波検査 健康保険が適用されます
MRI 検査専門のクリニックへご紹介いたします

治療

投薬による治療。手術が必要と判断した場合には、高次医療機関をご紹介します。

※表は横スクロールできます。

子宮内膜症・子宮腺筋症治療薬の比較
  偽閉経療法 男性ホルモン 偽妊娠療法
薬剤・療法 GnRHa点鼻薬 GnRH注射薬 ダナゾール ディナゲスト 低用量ピル
治療期間 4~6ヶ月 4~6ヶ月 4ヶ月 6ヶ月 6~12ヶ月
料金(/月) 約11,000円 約16,500円 約11,000円 約3,850円 約3,300円
<効果>
子宮内膜症
子宮腺筋症
2+
2+
3+
2+
2+
2+
2+
+ ~2+

2+
<副作用>
肝障害/血栓
更年期障害
反発現象






+-
+-






子宮内環境の異常

検査方法

  • 子宮内細菌叢(子宮内フローラ)
    EMMA(エマ/子宮内マイクロバイオーム検査)

    フローラとは、細菌の集合体のことを意味します。腸内には様々な菌が生息していることが知られています(腸内フローラ)。この中には、いわゆる善玉菌、悪玉菌があり、体全体の免疫機能に関与しているといわれています。
    従来、子宮の中は無菌状態で、強い炎症を起こさない限り、通常の子宮内細菌培養を行っても細菌は検出されませんでした。しかしながら、近年、子宮内の細菌を遺伝子レベルで解析すると、子宮内にも善玉菌、悪玉菌が存在することがわかったのです (子宮内フローラ、子宮内マイクロバイオーム)。子宮内に善玉菌が多いほど妊娠しやすくなることが知られています。その善玉菌がどのくらい存在するかを調べ、子宮内の細菌の種類と量を測定し、妊娠に適した状態かを調べます。
  • ALICE(アリス/感染性慢性子宮内膜炎検査)
    慢性子宮内膜炎は、細菌感染によって起こり、不妊・不育症の原因の一つといわれていますが、発熱、痛みなどの自覚症状はありません。ALICEは、 EMMAと同時に行う検査です。悪玉菌がいるからといって、そのすべてが炎症を引き起こしているわけではないので、特に炎症に関与している細菌を同定することが目的です。
  • ERA(エラ/子宮内膜着床能検査)
    高温期のプロゲステロンやエストロゲンなどにより、子宮内膜は着床に適した変化を起こします。この子宮内膜には着床に適した期間があります。これを着床の窓(implantation of window:WOI)と呼びます。通常排卵後7±2日と推定され、この時期に胚が着床します。ごくまれに着床期間がずれている場合があるため、そのような方の胚移植に最適なタイミングを調べるのが、ERA(子宮内膜着床能検査)です。
    子宮内の内膜の一部を採取し、着床時期に関与する遺伝子発現を解析し、ずれがないかを調べます。 基本的に以前妊娠された経験のある方は、大きなずれはないと考えられますので、検査はしなくてもかまいません。
  • 検査は、内診台で子宮内に細い採取用の管を挿入し、子宮内膜の一部を吸引、採取します。採取は数分間で終了しますが、少し痛みをともなうことがあります。
    なお、検査終了当日は、感染のリスクを避けるため、入浴、性交はお控えください。

検査の時期と注意事項

子宮内環境の検査であるEMMA(エマ/子宮内マイクロバイオーム検査)、ALICE(アリス/感染性慢性子宮内膜炎検査)、ERA(エラ/子宮内膜着床能検査)は、ホルモン補充周期で内膜を作製して黄体補充開始の5日目に行います。
子宮内細菌叢(子宮内フローラ)検査は、排卵時期に行います。
いずれの検査も、ピルや子宮内膜症治療中は、検査することはできません。検査結果がでるまでには、約4週間かかります。

検査の費用

子宮内細菌叢(子宮内フローラ) 自費:約49,500円(税込)
EMMA、ALICE、ERA3種 自費:165,000円(税込)
ERAのみ 自費:132,000円(税込)
EMMA+ALICE 自費:66,000円(税込)

治療法

  • 子宮内フローラのバランスに問題があると判断した場合には、整腸剤ラクトフェリンなどを投与することで善玉菌の量を増やし、妊娠に有利な状態を目指します。
  • 慢性子宮内膜炎に対しては、ALICEで炎症の原因になっていると思われる悪玉菌を特定して抗生物質を投与します。
  • ERAで、着床時期に関与する遺伝子発現にずれが見つかった場合には、検査結果に従って移植時期を修正し、その方に最適なタイミングで胚移植を行います。

自己免疫の問題

妊娠は、半分異物である受精卵(胚)を子宮内膜に受け入れることで成り立っています。そのすべては複雑で、まだわかっていませんが、反復着床不全(RIF)の方の中に受精卵を異物として拒絶するような免疫反応が高い方がいることがわかってきました。

この免疫反応を調べるのが、ヘルパーT細胞(Th)1値、及びTh1/2比を測定する免疫因子の検査になります。Th1は、細菌などの細胞に対する抵抗、拒絶反応を示すもので、この値が高いと受精卵の拒絶が起こりやすいことが知られています。

また、ビタミンDはヘルパーT細胞に働きかけてTh1/2比を正常化する働きがあります。ビタミンDが低いと受精卵が着床しにくく、着床したとしても流産しやすくなる可能性があります。

検査方法

  • 血液検査

検査の費用

Th1/Th2比 自費:22,000円(税込)
25(OH)VD 自費:2,200円(税込)

治療法

  • Th1高値の場合には、タクロリムスなどの免疫抑制剤を投与します。
  • ビタミンDの血中濃度が低い場合は、サプリメントなどで補充します。

血栓ができやすい体質

不育症の方の中には、血栓を作りやすい体質や抗体を持った方がいます。そのような方は、子宮の血流が悪く着床しづらく、妊娠しても胎盤の血流が滞って流産になることがあります。血栓を作りやすい抗体には、プロテインC活性、プロテインS活性、第ⅩⅡ因子活性、APTTなど、いくつかの種類があります。

また、自己免疫の異常で血栓ができやすくなる抗リン脂質抗体症候群も不妊の原因となります。現在行われている検査は、ループスアンチコアグラント(LA)、抗カルジオリピン(CL)β2GP1複合抗体、抗カルジオリピン(CL)抗体IgG、IgMなどです。

検査方法

  • 血液検査

検査の費用

<抗リン脂質抗体>

ループスアンチコアグラント(LA) 4,620円
抗カルジオリピン(CL) 3,960円
β2GP1複合抗体、抗カルジオリピン(CL)抗体IgG、IgM 9,460円
合計 自費:18,040円(税込)

<血栓を作りやすい抗体>

プロテインC活性 3,960円
プロテインS活性 2,970円
第ⅩⅡ因子活性 3,960円
APTT 495円
合計 自費:11,385円(税込)

治療法

血栓ができやすい体質や抗体を持った方には、低用量アスピリン療法が必要となります。必要と判断した場合には、ヘパリン療法を行うこともあります(他施設をご紹介いたします)。

内分泌の異常

内分泌・代謝因子として、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、糖尿病なども、RIFや不育症の原因になることがあります。

甲状腺機能(TSH、FT4)

甲状腺は、全身の細胞の代謝にかかわるホルモンです。妊娠に関しても甲状腺機能が安定していることが必要となります。甲状腺ホルモンが高い甲状腺機能亢進症の場合、早産胎児発育遅延などや流産との関与が報告されています。一方甲状腺ホルモンが低い甲状腺機能低下症の場合、流産、早産、胎児発育遅延、児の知能発育不全と関連すると報告されています。

検査の費用

TSH、FT4 保険:1,610円

糖尿病(血糖、HbA1c)

高血糖の場合、妊娠初期の流産などの関連が指摘されています。また排卵障害の原因となることがあります。

検査方法

  • 血液検査

検査の費用

血糖、HbA1c 保険:1,460円

治療法

適応がある場合には、専門内科医と連携をとって、持病をコントロールしたうえで次の妊娠を目指します。

卵巣機能の異常

婦人科的には、卵巣機能の異常となる黄体期能不全症、高プロラクチン血症、高アンドロゲン血症なども着床を妨げたり、妊娠の継続を難しくしたりする場合があります。

黄体機能不全

基礎体温で高温相が10日以下の場合や黄体ホルモン(プロゲステロン)値を測定し、数値が低い場合を黄体機能不全症と言います。着床障害や流産の原因になることがあります。

高プロラクチン血症

プロラクチン(PRL/乳汁分泌ホルモン)値を測定します。プロラクチンは、脳の下垂体から分泌されるホルモンで、分娩後は乳腺を刺激して母乳を作り出すホルモンです。この数値が高いと排卵障害や黄体機能不全の原因になります。降圧剤や向精神薬などの薬剤やストレスで上昇することがありますが、プロラクチン値が50ng/ml以上の場合は、プロラクチン産生腫瘍(プロラクチノーマ)の可能性もあるため、診断のため頭部のMRIをお勧めします。

検査の費用

プロラクチン 5,500円(税込)

高アンドロゲン血症

男性ホルモンの一種であるテストステロン値を測定します。数値が高いと排卵障害の原因となることがあります。また、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の場合に上昇することも知られています。

検査方法

  • 血液検査

治療

投薬による治療。

ご夫婦の染色体の異常

染色体の数や構造に問題がないかを調べる検査です。流産の原因の約半数は、胎児の染色体の問題によるものといわれています。その大半は、偶発的なものです。しかしながら、不育症の夫婦の場合、その約5%に夫婦いずれかの染色体異常が見つかると報告されています。流産を繰り返す場合には、夫婦の染色体検査をおすすめします。
また、生殖能力と関係した染色体の問題は、卵巣の発育に影響を与えることが報告されているため、40歳未満で月経が来なくなった無月経の早発卵巣不全(premature ovarian failure:POF)の方にも、原因究明のため染色体検査をおすすめすることがあります。

検査方法

  • 血液検査

検査の費用

自費:1人 35,200円(税込)

ご夫婦のいずれかに異常が見つかったら

遺伝カウンセリングをおすすめしています。

診療スケジュール
Schedule

完全予約制・初診は平日のみ

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