当クリニックの不妊治療の流れの特徴は、「原因にあった治療」を進めていくところにあります。
不妊症は、様々な複数の不妊原因によっておこるカップルの疾患です。奥様とご主人様、両者の小さな原因までも細かく見つけ出して、カップルに適した治療を組み立てます。
そのため当クリニックには、基本的に「ステップアップ」という考え方は存在しません。
初診でホルモン異常や排卵障害見つかれば、すぐに投薬治療を開始します。人工授精(AIH)を行う理由があれば、初診後すぐに進めていきます。卵管通過障害や高度な男性因子が存在する場合には適応どおりにART(体外受精・顕微授精)、また原因不明といわれて長い期間が経過したカップルには受精確認の体外受精治療も進めていきます。
1. 初診からの検査の流れ
初診では、詳細にお話をうかがいます。
月経歴、妊娠歴、治療歴が、特に重要な問診です。治療歴のある方は、紹介状をご持参くださると経過がわかりやすいですが、紹介状がなくとも、受けてこられた治療やそのときのホルモン検査の結果、超音波検査所見、ART治療の経過や結果など、お持ちのものがあればご持参ください。お話をうかがいながら、経過を整理していきます。初診は、月経周期のどの時点で来院されてもかまいません。
基本不妊検査は、ホルモン検査・子宮卵管造影検査・精液検査・超音波検査・性交後試験(フーナーテスト)です。来られた時点の月経周期に合わせて、基本不妊検査のスケジュールを立てます。検査は初診後2~3週間、1~3回の受診でほぼ完了します。1年以内に受けられた基本不妊検査は、当クリニックでは省略します。できる限り検査は重複しないように進めます。
初診時のおもな検査は、ホルモン検査と内診、超音波検査になります。
ホルモン検査で投薬が必要な状況が見つかった場合には、初診から速やかに妊娠に向けた体づくりのために、排卵誘発剤を用いて最適なホルモン環境に整えていきます。正常な月経周期を作り、基礎体温を正常化し、十分なプロゲステロンの分泌を促すことは、不妊症を予防する重要な鍵になるのです。
内診・超音波検査では、子宮の位置や大きさや形、可動性を見ていきます。内診所見で骨盤内癒着がみられる場合には、速やかに子宮卵管造影検査の予定を立てます。卵管通過性を確認することが必要です。
初診時にご主人様の精液検査を行うこともできますので、ご予約の際にお申し出ください。精液検査には3~4日の禁欲期間が必要ですので、来院時におうかがいして検査可能ならば初診時に行います。当日ご主人が来院されなくても、後日、精液をご持参していただいて検査しますので、ご心配はいりません。奥様お一人での初診で大丈夫です。
2. 基本検査終了後の治療について
治療方針を決めていくうえで、重要な鍵は3つ。
「子宮卵管造影検査」と「精液検査の結果」と「奥様の年齢」です。
奥様の年齢が32歳未満↓の時
子宮卵管造影検査で正常あるいは軽度卵管通過障害では、卵管造影検査後6ヶ月間は自然妊娠の可能性が高くなります。精液検査やフーナーテストに問題なければ、排卵誘発剤投与で経過を見ます。どのくらいの期間治療を行うかを決めていくのが、奥様の年齢です。32歳未満では6~12ヶ月は排卵誘発剤投与で様子を見ます。
また、精液検査で異常を認めた場合には、ご主人様も男性不妊症専門病院 を受診し、原因精査や原因に合わせた治療に取りくむこともよいでしょう。男性の治療には時間を要しますので、じっくりとゆっくりと治療に取り組まれても良いでしょう。
婦人科的なアプローチは、精液検査の結果で変わります。精液所見で運動精子数が10~20×106/mlの時は、人工授精(AIH)を進めます。AIHは自然妊娠に近いので、妊娠の可能性が高まる卵管造影検査後6ヶ月の間に早めにAIHに取り組まれるとより効果が期待できます。また、フーナーテストで異常を認めた場合も、卵管造影検査後6ヶ以内のAIHを進めていきます。
精液所見で運動精子数が10×106/ml以下では自然の受精が難しくなるため、体外受精 (IVF) の適応となります。さらに運動精子数が5×106/ml以下のときは顕微授精(ICSI)が必要になってきます。
子宮卵管造影検査で明らかに両側の卵管通過障害がみられた時には、奥様の年齢が32歳未満では腹腔鏡検査やIVFやICSIなどのART(生殖補助医療) を進めていきます。腹腔鏡検査は、女性の原因不明不妊を精査していく検査です。基本的にはご主人様の精液所見に問題ない場合が適応となります。精液所見がAIHレベル以下では、ART治療の適応となります。腹腔鏡検査とARTそれぞれの治療のメリット・デメリットを理解し、ご夫婦の納得いく方向で治療を選択します。
奥様の年齢が32歳以上↑の場合
子宮卵管造影検査で正常あるいは軽度卵管通過障害では、卵管造影検査後6ヶ月間は自然妊娠の可能性が高くなります。精液検査やフーナーテストに問題なければ、排卵誘発剤投与で経過を見ます。どのくらいの期間治療を行うかを決めていくのが、奥様の年齢です。32歳未満では6~12ヶ月は排卵誘発剤投与で様子を見ますが、32歳以上では6ヶ月で治療方針の変更を考えます。
37歳以上では、さらに早めの方針変更が必要です。
また、精液検査で異常を認めた場合には、ご主人様も男性不妊症専門病院を受診し、原因精査や原因に合わせた治療に取りくむこともできますが、男性の治療には時間を要しますので、婦人科的アプローチを選択されることをおすすめします。
婦人科的なアプローチは、精液検査の結果で変わります。精液所見で運動精子数が10~20×106/mlの時は、人工授精(AIH)を進めます。AIHは自然妊娠に近い治療法のため、卵管造影検査後6ヶ月は妊娠の可能性が高くなることを利用して、この期間中、早めにAIHに取り組まれるとより効果が期待できます。また、フーナーテストで異常を認めた場合も、卵管造影検査後6ヶ月以内のAIHを進めていきます。
精液所見で運動精子数が10×106/ml以下では自然の受精が難しくなるため、体外受精 (IVF) の適応となります。さらに運動精子数が5×106/ml以下の時は顕微授精(ICSI)が必要になってきます。
子宮卵管造影検査で明らかに両側の卵管通過障害がみられた場合には、ARTを進めていきます。
32歳頃からARTで採卵できる卵子の数が減ってきます。ARTの治療成績も緩やかに低下し始めるのが32歳からです。ARTを受ける理由がはっきりしているときは、早めのARTへの移行が良いかもしれません。
基本不妊検査後の治療方針
※ピンチアウトで図を拡大できます。
3. 基本検査終了後の治療で妊娠に至らなかった場合
子宮卵管造影検査後あるいは腹腔鏡検査後、基本不妊検査結果に合わせた治療(32歳未満では6~12ヶ月、32歳以上では6ヶ月)を進めていても妊娠に至らなかったときは、治療方針の変更を考えます。
具体的には、治療方針を変えるというのはどういうことなのでしょう。
ART治療は、卵管通過障害や男性因子に対して行う治療ですが、検査としての位置づけがあります。ART治療で見つかる不妊原因があるのです。
まず、受精障害不妊症です。受精は、精子の数だけで決まるのではありません。卵子は、透明帯と呼ばれる卵の殻に包まれています。この透明帯が硬く、受精障害を起こすことがあります。これはARTを行わないと見つけられない不妊症です。受精障害の唯一の治療が顕微授精(ICSI)です。
また、卵子の質の低下もARTを行わないと確認できません。年齢による卵子の質の低下だけでなく、若い患者様の中にも、卵子の質の低下がみられます。卵巣血流障害などで起こってきます。卵巣血流障害による質の低下に対しては、原因を見つけて血流を改善する取り組みが必要です。
着床障害もARTを行うことによって確認できる不妊原因です。質の良い胚を移植したにも関わらず(少なくとも4個以上の良好胚を3回以上胚移植したにも関わらず妊娠しない状態が着床不全)妊娠しない場合は、着床障害の原因精査と治療が必要になります。着床障害の治療の中には、時間を要する治療もあるので、年齢による卵子の質の低下が起こる前に、治療に取り組むことが必要です。
卵管の通過障害もなく、精液所見に問題もなく、性交後試験も問題なし、ホルモンもすべて改善しているにも関わらず長い期間妊娠に至らないときには、受精障害・卵子の質の低下・着床障害を疑ってみましょう。
ARTを受けることで見つかる不妊の原因
※ピンチアウトで図を拡大できます。